第23回日本統合医療学会

テーマ: — 敬天愛人 — 霊性を育み、自然治癒力、自己成長力を高める全人的ヘルスケアプロモーション

大会長挨拶

  • 第23回日本統合医療学会学術大会
  • 大会長 吉田 紀子
  • (日本統合医療学会理事兼鹿児島県支部 支部長、
    恩賜財団済生会鹿児島地域包括ケアセンター所長)
大会長:吉田 紀子 写真

日本統合医療学会第23回大会を、日本統合医療学会新理事長の伊藤壽記先生を名誉大会長に、日本統合医療学会本部及び九州ブロック支部と協働のもと、鹿児島県支部が事務局を担い、明治維新151周年を迎える鹿児島市で2019年12月7日(土)8日(日)に開催させていただくこととなりました。どうかよろしくお願い申し上げます。

世界一の高齢先進国であり、平均寿命も延伸しつつある日本では、人生100年時代のマルチステージの人生の生き方を可能にする社会づくりと、社会保障制度の基本的構造転換が求められています。

健康障害を予防し本来の保険原理を徹底させ、多様な生活のリスクに対して個人の持つ潜在的能力を引き出し自助可能とするための自立支援と、社会的ハンディを有しても、ソーシャルインクルージョンとして共に生きることの可能な暖かい社会をめざす共生支援のヘルスケアシステムが必要とされています。

そのための社会政策的枠組みの一つが地域包括ケアシステムでありますが、地域包括ケアの仕組みが稼働する要件は個人と社会のエンパワーメント、すなわち、健康福祉的生活の自助力、互助力、共助力、地域づくり力を高めることと考えられます。

個人と社会が自らをエンパワーメントできるには、まず、目指すところを定め、自らを知り、外界を知らねばなりません。つまり死生観・人生観・健康観をもち、これらの哲学・信念をもとに自分の人生に責任を持ち、ヘルスリテラシーをはじめ100年を生き抜く力を醸成していく、このプロセスを支援できるのは全人的健康観に立脚したヘルスケアシステムであると思われます。

真の意味でこれに応え得るのが統合医療学会のめざすヘルスケアシステムではないでしょうか。

わが国における統合医療学会活動も関係者の努力、理解者・支援者・国民の皆様のご支援・応援により、国内に支部も増え、学会創生期の目標は達成されつつありますが、一方で統合医療学会は何を目指している学会なのか分からないというご指摘があるのも事実です。

今後学会の目指す統合医療が、真の未来型ヘルスケアとして受け入れられ、定着するためには、①統合医療が何を目指し、何を目的としているのかを明確にし、②目的を果たす手段としての統合医療が客観的に評価され価値ある手段であることを可視化していくことが求められています。

統合医療学会では「統合医療」を広義に解釈し、「狭義の統合医療モデル」と「社会モデル」を含むものとしていますが、いずれにしても統合医療は個人と社会の全人的健康を高め、自己成長に資する手段でありましょう。従って、全人的健康の身体・こころ・霊性(スピリチュアリティ)・社会性の4側面の内容と意味および関係を熟知したうえで、医療モデルとしては患者・クライエントの全人的健康ニーズの診断指標、診断基準、および全人的に丸ごと健やかにする手段としての各種医療・療法・健康法の開発と適用基準と評価基準が必要になります。

医療モデルでは自然治癒力を高める支援が期待されますが、現在研究が進んでいる免疫機能評価指標の開発等を糸口に、心や霊性を含めた全人的自然治癒力強化法開発・検証への期待が持たれています。

全人的健康の一つの要素である霊性に関しては、先行研究や筆者らの研究結果等からも、霊性の目覚めと高まりは被災など艱難辛苦のストレスを自己成長の好機にかえる力を提供してくれることが示唆され、全人的健康と自己成長には特にこころと霊性の健康が重要であると考察されますが、一般的に霊性分野の活動には有害事象も見聞・指摘されています。従って学会に対しては、今後、適正な学術的・科学的態度による霊性と健康の研究・検証への取り組みが期待されています。

社会モデルとしては、各地方自治体の地域包括ケア推進を好機として、住民の全人的自助力・互助力を高め、自治体の全人的地域包括ケアの地域づくり推進を図る必要があります。モデル自治体の育成、自治体への普及促進策の検討等、全人的健康の自助・互助を支援する地域社会(平常時・非常時)についての診断・手法・評価法の開発が必要です。

一方自治体の立場では統合医療の価値の可視化が社会モデル促進要因の一つになります。

従って、医療モデルと社会モデルの発展は相関しております。

以上のような背景・理由から、今大会のメインテーマを支部会員で検討し、学会本部のご意見もいただき、「~敬天愛人~霊性を育み、自然治癒力、自己成長力を高める全人的ヘルスケアプロモーション」と掲げました。

敬天愛人は明治維新に貢献した西郷隆盛の座右の銘とされていた言葉です。また、「プロモーション」はここでは公衆衛生学的に地域社会づくりの意も含みます。

大会内容はメインテーマに相応した最先端の国内外の講師による講演、シンポジウム、各種体験型ワークショップ、一般演題のほか、上海の中西結合医学界との交流などを企画・準備中です。詳細は第23回日本統合医療学会学術大会のお知らせ第2報以降で順次お知らせ予定です。

本学術大会が、皆様の交流を深めますとともに、人知を超えるものを敬い、生まれてから死ぬまで、健康な時も病気や障害を有するときも、自然治癒力を発揮し、学び、成長し、命のエネルギーを高めていけるようなヘルスケアプロモーションについて共に研鑽を深める機会になることを願っています。悠久の自然、温泉と郷土食、そしてホスピタリティ溢れる県民が皆様のお越しを心よりお待ちいたしております。

平成30年10月吉日